ジョルジュ・ドルリュとアメリカの夜

東越谷音楽通信

 「舞踏会のシーンの音楽ができたぞ。聴いてくれ。」
 「(音楽を聴きながら)いいぞ、ジョルジュ、それでいこう。」
 映画『アメリカの夜』で、自ら映画監督に扮したフランソワ・トリュフォーが電話で作曲家と打ち合わせをする場面。ここで声だけの出演をするのは、実際にこの映画の音楽も担当するジョルジュ・ドルリュである。
 トリュフォーとドルリュの共同作業は多く、アメリカの夜の他にも『日曜日が待ち遠しい』とか『トリュフォーの思春期』などがある(この思春期って邦題は何とかならんか。確か原題は「ポッケのなかのお小遣い」とかいうものだったと思う。この映画、どういうわけかリバイバルはされないし、ビデオにもならない。もう一度観たいんだけど)。
 編集者にとっては、しかしこの『アメリカの夜』は特別な作品で、何度でも観たい。レーザーディスクも買ったんだけど、何と英語吹き替え版で、冒頭いきなりトリュフォーが”Cut, please!”とか言ったりして、かなりズッコケる(^_^;)。それでも無いよりはマシであって、鳶色の眼が美しいジャクリーン・ビセットや、渋いジャン・ピエール・オーモン、貫禄のヴァレンチナ・コルテーゼ、ホントは結構いい年なのに若手俳優をじつにそれっぽく演じるジャン・ピエール・レオなどの映像はしっかり確かめることができる。
 映画の中身は、トリュフォー扮する映画監督が『パメラをご紹介します』という作品を制作する過程での、さまざまなエピソードをつなぎ合わせたお話である。いちおうクランク・インから完成までの一続きのお話になってはいるが、ストーリーはあまり重要じゃない。監督も俳優も、とにかく映画の世界に生き、こんなにも映画を愛しているんだ、というようなことが語られている。
 ....と、書き出せばキリがないが、ここでは映画音楽の話。ジョルジュ・ドルリュの音楽は、ピッコロ・トランペットの旋律が印象的な主題曲や、俳優達がちょっとしたピクニックにでかける場面の音楽、そして冒頭に記した舞踏会の音楽など、どれをとっても美しく、またいきいきとしている。
 トリュフォー以外との作品も多い。ハリウッドに移ってからの作品にはマイク・ニコルズによる『イルカの日』がある。ここでのしみじみと悲しく、美しい音楽もドルリュの持ち味だ。いっぽう、記憶は不確かなのだが、シドニィ・ルメットが珍しく娯楽作品に挑んだ『オリエント急行殺人事件』もドルリュだったと思うが、タイトルバックの緋色のカーテンと、ピアノと管弦楽による絢爛たる主題曲がマッチしていて素敵だ。オリエント急行が出発する場面のわくわくするようなワルツも印象的だった。
 ジョルジュ・ドルリュの職人技は大向こう受けはしないかも知れないが、もっと評価されていい人だと思うのである。


 上記記事を読んで下さったある方から「トリュフォーの思春期が昨年東京でリバイバル上映されたので、観てきました」というお便りを戴いた。編集者も気付いていれば観ることができたのに、と残念に思っていたら、さいきん会社の近所のショップでこの作品のビデオが販売されているのを目撃した。そうか売っていたのか。財政が破綻しかかっているので買わないで帰ったが(今時1万円以上も出してセルビデオは買えないなぁ)。
 ちなみに当作品の音楽担当はドルリュではありませんでした。ごめんなさい。(1997.10.04)
 さらにお詫びの追記。『オリエント急行殺人事件』の音楽はドルリュではなく、リチャード・ロドニィ・ベネットでした。NAXOSの録音(8.554323)にて判明致しました。お詫びして訂正(_ _)。(1998.6.26)

コメント

  1. トリュフォー的「カミュなんて知らない」

    吉川ひなのによる偏執的恋愛の体現「アデル」も大変印象的でしたが、一方で、この映画、学生が作る映画の制作進行が、クランクイン直前から、クランクアップまでの時間の流れに沿って描かれています。
    つまり、多分(確認したわけではないので、全くの私感ですが)、こ…

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