ジュピター、快楽をもたらすもの

音盤ジャケ絵三昧

 スラトキン指揮、フィルハーモニア管弦楽団による『惑星』の新譜がテルデックから出た。グレー基調のイラストで、月面の空に大きく浮かび上がる星雲を描いていて渋い。
 惑星というと恥ずかしい思い出がある。高校に進学し、吹奏学部に入部したばかりの頃のことだ。まだクラシック音楽との接点は殆どなく、レコードを買ったこともなかったある日、吹奏学部の練習で音楽室へ行くと、先輩の譜面台に”Jupiter”と書かれた楽譜がのっかっている。このとき編集者は、聞きかじりのいい加減な知識で知ったかぶりをしてしまい、先輩に「つぎはモーツァルトですか」と尋ねたのである。
 もちろんホルストの名前など聞いたこともない。また吹奏楽でモーツアルトの交響曲を演奏しようとすることの不自然さも分かっていない編集者に、それでも先輩は丁寧に惑星という曲のことを教えてくれた。で、編集者はこの未知の音楽を聴くため、親父にねだってレコードを買って貰うことにした。
 同期の友人が「プレヴィンとロンドン響の演奏がいい」と教えてくれた。しかし親父と出かけたダイエー戸塚店のレコード屋には、たまたまバーンスタインとニューヨークフィルのものしか無かった。「これでいいじゃねぇか」という親父の発言で、結局バーンスタイン盤を買ったが、このジャケ絵がイマイチだったのである(^_^;)。プレヴィン盤は日食の写真で、漆黒の闇を背景にコロナが映えているもの。バーンスタイン盤は何だか占星術に材をとったイラスト。このプレヴィン盤のジャケ絵が綺麗で羨ましかった。
 でも、よく考えてみるとプレヴィン盤、太陽と月が写っているわけだが「惑星」なんかどこにも無いのである。その後何枚かの「惑星」のジャケ絵に接したが、どれもこれもイマイチなんだなぁ。何となく「宇宙的」ってコンセプトのものはたくさんあって、大星雲の写真をのっけたり(カラヤン盤)、想像で描いたどこかの星のイラストをあしらったり(マリナー盤、小澤征爾盤など)、等々。占星術系(!)ではレヴァインのものなどもある。でも、パッとしないものが多い。メータ=LAPO盤は指揮者の手元だけを長時間露出かなにかで撮った写真で、なんだか訳が分からない。
 やや印象に残っているのはマゼール=フランス放送響盤のオリジナルジャケット。衛星の地平線の彼方に上りつつある土星という構図だが、この土星を画面中央に垂直に配置している。土星の輪も殆ど一本の鉛直線。このセンスは素敵だ。もっとも、既にキューブリックが『2001年宇宙の旅』で完成しちゃったデザインだけど。
 というわけで、近年のガーディナー盤も含めてもう一つ決め手に欠けていた惑星ジャケ絵だが、冒頭に記したスラトキン盤、あまりケバケバしくなく、それでいて結構存在感がある悪くないデザインだと思う。さて、演奏はどうだろうか。

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