編集日記(1998.05.29分)

東越谷編集日記

1998年5月28日(木) 19:00 東京オペラシティ・コンサートホール
ヴァイオリン:クリスチャン・テツラフ
指揮:エサ・ペッカ・サロネン
フィルハーモニア管弦楽団
ドビュッシィ:イベリア
リゲティ:ヴァイオリン協奏曲
(休憩)
リゲティ:管弦楽のためのメロディ
ラヴェル:ダフニスとクロエ組曲第二番
 サロネン=フィルハーモニア管、東京第三夜。演奏の完成度はこの夜がいちばん高かったように思う。ドビュッシィでの丁寧な色彩づくりには目を見張らされたし、ラヴェルでは最後までよくコントロールの行き届いた演奏になっていた。リゲティでのテツラフの超絶技巧にはほんとうに舌を巻いた。微分音か何かでのポリフォニィを重音で弾き切るところなど、どういう耳をしているのだろう。凄い。アンコールでバッハの無伴奏か何かを弾いてくれたが、これも充実していた。降り番の楽団員が大量に客席に出てきて聴いていたが、みな熱心に拍手していた。また、ラヴェルでのフルート・ソロも素晴らしかった。ちなみにラヴェルではパーカッションが10人も出場していたぞ。リゲティでも、マリンバやらシロフォン、グロッケンなど鍵盤打楽器が6種類も登場してたな。
 ただ、個人的には第二夜がもっとも充実して聴けた(それにしてもアトモスフィア、返す返すも残念無念)。リゲティの作品を幾つか聴いて、彼の60年代の作品群がもっとも興味深かったこともあるし、ベロフの名演が聴けたことも大きいかも知れない。全体としては、多少荒っぽくても熱気の勝った演奏に感情移入してしまったからかも知れない。
 ホールの話を少し。このホール、今回が初めてなのだが、少し「響きすぎる」気がする。フォルティシモでは響きが混濁してしまって、何をしているのか分からなくなる瞬間があるのだ。とくに3階正面(1列目、2列目)で聴くと、そうした傾向が強かったように思う。ピアノやヴァイオリンのソロが、響きすぎるオケに埋没してしまうところも散見された。 ....それにこういうよく響くホールって、客席のノイズもよく響いてしまうのだよね。椅子に貼り付けてあるテキスタイルが、妙に衣擦れの音をたてがちなのもマイナス。ついでに云うと、ホールへのアプローチの長い階段で得体の知れない電子音を流すのはぜったいに止めて欲しい。音楽会が終わってホールを後にする際、余韻をぶち壊すのである。
 ....それから、この際勢いで書いてしまうのだが、第二夜に起きた「不幸な状況」について。3階正面2列目中央に座っていた親子3人連れ。男の子はたぶん5-6歳。この家族が編集者の隣に座っていたのだが、プログラム冒頭、アトモスフィアの最初の一音が鳴り始めた瞬間、男の子が得意そうに大声で「始まったね」と母親に話しかけたのである。その後も数回、母親や父親に何か話しかけては、そのたびに親に叱られるのだが、あきらかに親の責任であると思う。こんなにもデリケートな、精妙な音楽を聴こうとしているすぐ脇で子供に騒がれて、集中も何もあったものではないのだが、おそらくは「音楽好き」を自称するであろう、この両親に、リゲティを理解しようとする姿勢があるのだろうか。

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